親族経営 なぜ、説明を増やすほど話はこじれるのか
なぜ、説明を増やすほど話はこじれるのか――親族経営で「正しく伝えよう」とするほど失敗する理由親族経営の現場で、こんな経験はないだろうか。会社のためを思って、現状の問題点を整理し、理由を説明し、数字や事例も添えて話す。こちらとしては「丁寧に伝えたつもり」なのに、場の空気は重くなり、話は前に進まない。場合によっては、「理屈っぽい」「面倒なことを言う人」という評価だけが残る。多くの場合、この状況は説明不足や言い方の問題として片づけられる。しかし、現場で起きているのはそれとは別の問題だ。説明すれば伝わる、という思い込み話し合いがうまくいかないとき、人は無意識にこう考える。「まだ十分に説明できていない」「相手に理解してもらう努力が足りない」その結果、さらに言葉を足し、背景を語り、前提を丁寧に解説し始める。だが、親族経営ではこの行動が逆効果になることが少なくない。理由は単純だ。問題は「情報量」ではなく、会話の前提レイヤーが違うことにある。OSが違う相手に、説明を積み上げても届かない前回の記事で触れたように、親族経営では「会社の定義」そのものが食い違っていることがある。会社を、意思を統一して外に出す「組織」と捉えている人会社を、各人の裁量や意見が並ぶ「広場」と捉えている人このOS(前提)が違う状態では、同じ言葉を使っても意味が変わる。こちらは「意思決定のための説明」をしているつもりでも、相手は「一意見として聞いているだけ」かもしれない。このズレがある限り、説明を増やすほど、相手にとっては「話が長い」「説得しに来ている」「押し付けられている」という感覚が強まっていく。説明は、誠意ではなく“摩擦”になることがある後継者の立場にいると、つい「分かってもらおう」としてしまう。だが、説明を重ねる行為は、状況によっては誠意ではなく摩擦になる。決めるつもりのない場で、決断を迫る説明をする合意形成ではなく、ガス抜きの場で結論を出そうとする役割が定義されていない状態で、正論だけを提示するこれらはすべて、「正しいことを言っているのに、関係が悪化する」典型例だ。ここで重要なのは、説明が間違っているのではないという点だ。ただ、その説明が使われる場所が、そもそも間違っている。説明をやめることは、逃げではないこの構造に気づいたとき、多くの人は一度立ち止まる。「じゃあ、もう何も言わない方がいいのか」「黙るしかないのか」そうではない。必要なのは、説明の放棄ではなく、役割の切り替えだ。話し合いを「決める場」として使わない説明で動かそうとしない出力(結果)でしか変わらない領域があると認める分かり合うことを目標にするのではなく、壊さない距離で、組織を前に進める。これは冷たい判断ではない。むしろ、親族関係と事業を同時に守るための、現実的な選択だ。話し合いが機能しないとき、見るべき場所話し合いがうまくいかないとき、自分の説明能力を疑う必要はない。見るべきなのは、その場は、何を決める場所なのか相手は、会社をどう定義しているのか今のフェーズに、その話し方は合っているのかそこがズレている限り、どれだけ正しく、丁寧に説明しても、結果は変わらない。親族経営では、「正しさ」よりも「前提」が先にある。説明を増やす前に、その前提が共有されているかどうかを、一度疑ってみてもいいのかもしれない。