この会社の強さは、なぜ今も通用するとは限らないのか
前回、私はこの会社が今まで続いてきた理由を書いた。
多品種小ロットへの対応力。
小物製品の熱間鍛造という設備。
社内である程度工程を持てること。
現場を任せられる人がいたこと。
分業で、全体を見なくても仕事が回る構造。
どれも、この会社の強みだったと思う。
そして実際、それらがあったからこそ、ここまで続いてきた。
だから私は、過去のやり方を否定したいわけではない。
むしろ逆で、今まで成り立ってきた理由は、きちんと認めたい。
ただ、その強さが
今も同じ形で通用するとは限らない
とも感じている。
会社を支えてきた構造は、環境が変われば、そのまま弱みにもなり得る。
多品種小ロットへの対応力は、属人的な調整を生みやすい
多品種小ロットに対応できる会社は強い。
これは間違いない。
量で勝負する会社ではなく、
細かい依頼や変化に対応できる会社だからこそ、残れる仕事がある。
ただ、この柔軟さは
同時に「その場の判断」で回る構造も生みやすい。
標準化よりも現場判断。
仕組みよりも経験。
計画よりも都度対応。
そのやり方は、一定の規模までは機能する。
むしろ小回りが利く分、強いこともある。
しかし、案件が増え、人が増え、
判断が複数人にまたがるようになると、
その柔軟さは属人的な調整の積み重ねになっていく。
強みだったはずの「対応力」が、
管理の難しさに変わる。
分業で回る会社ほど、全体を見る人が育ちにくい
分業は効率的だ。
役割を分けることで、それぞれが自分の仕事に集中できる。
全体を把握しなくても、自分の持ち場を守れば仕事が回る。
これは会社を安定させる要因だったと思う。
だが同時に、
この構造は「誰も全体を見なくても成立する」状態を生む。
実際、長年勤めた人に話を聞いてみると、
「この仕事はやったことがないからできない」
という言葉を耳にすることが少なくなかった。
会社の規模を考えると、当時の私はそれを少し不思議に感じていた。
長くいる人なら、ある程度は全体を見ていて当然だと思っていたからだ。
しかし今振り返ると、
それは個人の意欲や能力の問題ではなかったのだと思う。
それぞれが決まった持ち場だけを見ていれば回るように、
会社の側が仕事を分けてきた結果だった。
ひとつひとつの工程は回っている。
だが、それが会社全体としてどうつながっているかを
意識しなくても済んでしまう。
その結果、
全体を見て判断する人が育ちにくくなる。
現場の中では一人ひとりが仕事をしている。
しかし、全体最適の視点は育たない。
これは、今までの会社にとっては効率だった。
だが、承継や拡大の局面では、そのまま限界になる。
現場を任せられる人がいたことが、仕組みづくりを遅らせる
現場をある程度任せられる人がいることは、会社にとって大きな強みだ。
経験がある。
判断ができる。
トラブルにも対応できる。
そういう人がいれば、
経営側がすべてを細かく設計しなくても、現場は大きく崩れない。
実際、それで回ってきた部分は大きいと思う。
しかしその強みは、
「仕組みがなくても回る」理由にもなる。
本来なら見直すべき流れも、
誰かが吸収してしまう。
本来なら整理すべき曖昧さも、
経験ある人が現場で整えてしまう。
その結果、
会社としての仕組みは育たない。
人が強いことで回る会社は、
人が抜けた瞬間に弱さが露わになる。
これは、人が悪いという話ではない。
強い人がいたこと自体は、むしろ会社の財産だ。
ただ、その財産に依存したままでは、
次の形には進みにくい。
強みが弱みに変わるのは、環境が変わったとき
強みは、いつでも強みであり続けるわけではない。
環境が変われば、評価は変わる。
人の構成が変わる。
仕事量が変わる。
求められるスピードが変わる。
承継のフェーズに入り、
「誰が全体を見るのか」が問われるようになる。
そうなると、これまで回っていた構造が、
急に苦しさを生み始める。
柔軟さは曖昧さになる。
分業は分断になる。
経験者の存在は、仕組みづくりの遅れに見えてくる。
今まで間違っていたわけではない。
ただ、条件が変わったのだと思う。
必要なのは否定ではなく、更新
ここで誤解したくないのは、
「だから今までの会社はダメだった」と言いたいわけではないことだ。
今までの形には、今までの合理性があった。
その形でなければ、むしろ続かなかったかもしれない。
だから必要なのは否定ではない。
必要なのは、更新だ。
今まで成り立ってきた強みを認めたうえで、
そのままでは次に進めない部分を見直していく。
承継とは、過去を壊すことではなく、
過去の合理性を踏まえて、次の合理性に作り替えていくことなのだと思う。
私はたぶん、
「今までの会社を否定したい」のではない。
この会社が続いてきた理由を理解したうえで、
この先も続く形に更新したいのだ。
その視点を持てるかどうかが、
承継の難しさでもあり、面白さでもあるのかもしれない。
※本記事は特定の人物・企業を批判するものではなく、
親族経営・事業承継の現場で、
会社がこれまで成り立ってきた構造を整理したものです。
※現在、親族経営や事業承継の現場で使える
思考整理用のメモやチェックリストを準備中です。

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