「俺は見てない」と言い訳される紙の指示書、指示系統の重複による現場の混乱。「設備を増やしてもモノが流れない」現実に直面した町工場の後継ぎが、ガントチャートや市販ソフトなど数々の導入失敗を経て、なぜ「AIとの自作」に賭けたのか? 泥臭い試行錯誤から始まった、手作りDXの記録・第1話。
なぜ、今さら「自作」なのか
「なぜ、わざわざ自分でシステムなんて作り始めたんですか?」
もし誰かにそう聞かれたら、技術的な興味があったからと答えたいところだが、現実はそんなにかっこいいものではない。 ただ単に、「そうしないと、現場が回らなくなったから」。それだけだ。
これは、町工場の後継ぎである私が、Pythonというプログラミング言語を使って、自社専用の生産管理システム「prodlog」を作り始めるに至った、泥臭い経緯の記録である。
「口頭指示」で回っていた古き良き時代
正直に告白すると、私の会社にはつい最近まで「生産計画」という概念そのものがなかった。
フローは驚くほど単純だ。
- お客さんから注文が来る。
- 来た順に、仕事を現場に流す。
- 段取りや細かい指示は、その都度「口頭」で伝える。
これで回っていたのだ。生産数が少なく、品種も限られ、なにより「阿吽(あうん)の呼吸」が通じるベテラン職人だけで回していた時代は、これで何の問題もなかった。
しかし、私が会社に入り、時代に合わせて会社を大きくしようとした時、このアナログな「常識」が壁となって立ちはだかった。
設備を増やしても、モノが流れない
注文を増やすために、新しい社員を採用し、設備投資をして機械を増やした。 理論上は、これで生産能力が上がるはずだった。
しかし、現実は違った。増やせば増やすほど、製品が流れなくなったのだ。
理由は明確だった。「口頭指示」の限界を超えてしまったからだ。 新しい社員には、ベテランのような「言わなくてもわかる」は通用しない。機械が増えれば、誰が何を加工しているのか、私一人では把握しきれなくなる。
「指示待ち」の時間が増え、機械は止まる。 設備投資をしたのに生産性が上がらないという、経営者として最も胃が痛くなる状況に陥ってしまった。
Excelと紙の敗北
「製品の流れを、会社全体で共有しなければならない」
そう痛感した私は、まずExcelで生産計画を作り始めた。 口頭ではなく、決まった計画を目に見える形で流す。当たり前のことだが、当社にとっては大きな進歩だった。
しかし、これもすぐに限界を迎える。 Excelで作った表を印刷して「紙」で現場に渡していたのだが、本来それを管理・徹底すべき立場の人間からですら、こんな声が返ってくるようになった。
「俺は見てないから知らない」 「紙がどこかに行った」
紙ベースであるがゆえの、「情報の伝達ミス」という名の言い訳がまかり通るようになってしまったのだ。
さらに現場を混乱させていたのが、管理側の「指示の重複」だった。 複数の管理者が、それぞれの都合や判断で現場に違う指示を飛ばしてしまう。「Aをやれ」と言われた直後に、別の管理者から「急ぎでBをやってくれ」と言われる。
現場の作業者は板挟みになり、結局どれを優先すればいいのか分からず手が止まる。 紙の計画表があっても、そこにリアルタイムの変更は反映されない。口頭での割り込み指示が横行し、計画は形骸化していった。
「指示系統を一本化し、誰の言うことが『正解』なのかを統一しなければならない」 それが、私が直面した最大の課題だった。
迷走の記録:ガントチャート、OCR、LINE WORKS
「自作」に行き着く前、私はありとあらゆる既存ツールを試しては、挫折を繰り返していた。この時期の私は、何か一つ便利なツールを入れれば全て解決すると信じていたのだ。
1. ガントチャートの罠
「可視化さえすれば判断できるはずだ」と思い、Excelで詳細なガントチャートを作り込んだ。 見た目は立派だった。しかし、運用初日で破綻した。 現場は常に動いている。ズレが生じるたびにExcelを修正する作業が膨大になり、私は「Excelを更新するために会社に来ている」状態になった。 この時、私は気づいた。「ガントチャートを作りたい」のではなく、「今の状況を見て判断したい」だけなのだと。
2. OCRとLINE WORKSの限界
次に、「入力の手間」を減らそうと、手書き日報をOCR(文字認識)で読み込んだり、流行りのLINE WORKSを導入して情報共有を試みた。 しかし、これもうまくいかなかった。 OCRは誤認識の修正コストが高すぎた。LINE WORKSは確かに連絡は早くなったが、データが蓄積されず、過去の履歴を探すのに時間がかかるようになった。
ここで痛感したのは、「元となるデータ(マスタ)」がない状態でツールだけ入れても、現場は混乱するだけだという事実だった。
「私の手」を離すための、最後の手段
市販の生産管理ソフトも検討した。何社もの営業の話を聞き、デモも見た。 しかし、どれも帯に短し襷に長し。 高額な初期費用がかかる上に、機能が多すぎて現場がついてこられない。「正解のシステム」を導入するのではなく、「現場で回る最小構成」が必要だった。
私が欲しかったのは、
- 「俺は見てない」と言わせない、工場のどこにいても見えるデカいモニター表示
- 複数の管理者の指示をシステム上で一本化し、「今の正解(計画)」を一つにする仕組み
- そして、マスタデータに基づいた、ブレない情報基盤
このワガママな条件を満たすものは、探しても見つからなかった。 「ないなら、作るしかないのか」
そう思い立った時、ふとある記憶が頭をよぎった。 少し前、会社の採用ホームページを自作できないかとChatGPTに相談した時のことだ。結局、生産管理の課題が優先してHP作成は後回しにしたのだが、その時私はあることに衝撃を受けた。
それは単なる回答の正確さではない。「素人が一番つまずく部分」を、驚くほど具体的にサポートしてくれたことだ。 私が漠然と「採用ページを作りたい」と言っただけなのに、AIはツールの提案だけでなく、「採用サイト用のHTMLテンプレート」や「画像の構成イメージ」といった、具体的な成果物まで提示してみせた。
さらに驚いたのが、その「進め方」だ。 「この文章どう思う?」と聞けば添削してくれ、「このレイアウトで伝わる?」と聞けば改善案を出してくれる。 一方的に答えを出すのではなく、対話しながら一緒に正解を探っていく。
「この細やかなナビゲートがあれば、未知のシステム開発でも迷わずに進めるんじゃないか?」
実は私には、学生時代にC言語やHTMLの基礎を学んだ経験があり、プログラミングに対して「構造的な理解」は持っていた。 私が構造を考え、AIがコードを書き、細かい部分は対話で詰めていく。この役割分担なら、私の技術不足を埋められるかもしれない。
私が賭けたのは、自分の技術力ではなく、「考えを言語化し続けられる相手がいる状態」だった。 過去の数々の失敗から導き出した「完璧な自動化はいらない」「現場の判断を邪魔しないものがいい」という要件を、AIという相棒になら伝えられる気がしたのだ。
こうして私は、経営の仕事の合間に、AIチャット画面を開くことになった。
この判断が正しかったのか、それとも無駄な足掻きに終わるのかは、まだわからない。 ただ、現時点での「記録」として、ここに書き残しておく。
※本記事は特定の人物・企業を批判するものではなく、 親族経営・事業承継の現場で起きやすい 業務構造や情報伝達の問題を整理したものです。
※現在、手作りDXの過程でも役立った 思考整理用のメモや、開発のチェックリストを準備中です。

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