仕組みを作っても、人はその通りには動かない

前回まで、話し合いだけでは変わらなかった仕事の流れを、仕組みとして残そうとした経緯を書いた。

会社に合うものが見つからないなら、小さくても自分たちに合うものを作る。完成形を最初から目指すのではなく、必要なものを一つずつ足していく。

そこまで考えた時、私は少しだけ期待していた。仕組みができれば、あとは皆が使いながら少しずつ会社が変わっていく。そんな期待があった。

しかし、実際はそれほど単純ではなかった。

使う人と、使わない人に分かれた

新しい仕組みを用意しても、全員が同じように使い始めるわけではない。

決めた方法に沿って入力する人もいれば、これまでどおり口頭で伝える人もいる。新しい画面を確認する人もいれば、誰かに聞いた方が早いと考える人もいる。

もちろん、使わない人に悪意があるとは限らない。

長く続けてきた方法は、本人にとって最も慣れたやり方である。新しい仕組みを覚えるには手間がかかる。一方で、従来の方法でも誰かが受け取って処理してくれるなら、変える必要性を感じにくい。

会社として新しい仕組みを用意しても、古いやり方がそのまま残っていれば、どちらを選ぶかは個人に委ねられる。

結果として、会社の中に二つの流れができた。仕組みに残る情報と、口頭だけで流れる情報である。

二つの流れをつなぐ仕事が生まれる

使う人と使わない人が混在すると、仕組みを導入する前にはなかった仕事が生まれる。

口頭で受けた内容を、あとから仕組みに入力する。入力されていない情報を確認する。画面にある内容と、現場で聞いた内容が違えば、どちらが正しいのかを調べる。

本来は仕事を整理するために作った仕組みなのに、その仕組みと従来のやり方をつなぐ作業が必要になった。

そして、その役割は自然と仕組みを作った人に集まってくる。

使い方を知っている。目的も分かっている。情報が足りなければ気づく。だから、抜けを確認し、説明し、修正し、時には代わりに入力する。

気づけば私は、仕組みを作る人であると同時に、仕組みを守らせる人にもなっていた。人に貼りついていた仕事を会社へ戻すために始めたはずなのに、今度は「仕組みを動かす仕事」が、自分に貼りつき始めていた。

仕組みを作ることと、運用を作ることは違う

ここで初めて、私は仕組みを作ることと、運用を作ることは別なのだと気づいた。

画面や帳票を用意するだけでは足りない。

どの情報を正式なものとするのか。誰が、いつ、どこまで入力するのか。例外が起きた時は、どのように変更を残すのか。従来のやり方を、どこまで残すのか。

こうした部分まで決まっていなければ、新しい仕組みは単なる選択肢の一つになる。

選択肢が増えただけなら、現場にとっては便利になるとは限らない。確認する場所が増え、かえって判断が難しくなることもある。

私は当初、「使いやすいものを作れば使ってもらえる」と考えていた。けれど、使いやすさだけでは足りなかった。

使うことが会社の仕事の流れに組み込まれているか。使わなかった時に、誰かが裏で補わなくても済むか。そこまで設計しなければ、仕組みは定着しない。

「なぜ使わないのか」だけでは解決しない

新しい仕組みが使われないと、つい本人の意識の問題として見たくなる。

なぜ決めたとおりにやらないのか。前の方法に戻ってしまうのはなぜなのか。そう考えたことは、私にもある。

ただ、使わなくても仕事が進み、最後は誰かが整えてくれる状態なら、使わない人だけを責めても構造は変わらない。

問題は、「使う人」と「使わない人」が同じ会社の中で共存でき、その間を誰かが埋め続けていることにある。

その誰かが頑張るほど、表面上は仕事が回る。だから、運用の不完全さも見えにくくなる。

これは、以前から会社の中で起きていたこととよく似ていた。足りない部分を誰かが補い、その人の負担によって会社が回る。仕組みを入れても、土台となる構造が同じなら、負担の形が変わるだけなのかもしれない。

会社が変わるのは、仕組みができた時ではない

仕組みを作ることには意味がある。

少なくとも、何を共有したいのか、どこに情報を残したいのかは明確になる。これまで見えなかった仕事の流れも、少しずつ形になる。

ただし、仕組みが完成した瞬間に会社が変わるわけではない。それを誰が使い、どのように日々の仕事へ組み込み、古いやり方とどう入れ替えていくのか。そこまで進んで、初めて会社の仕組みになる。

私はまだ、その途中にいる。作ることよりも、使い続けられる状態を作ることの方が難しい。次に考えるべきなのは、この仕組みが日々の仕事の中で、無理なく回り続ける状態をどう作るかだと思っている。

そして仕組みを使い始めると、これまで曖昧なまま隠れていた問題まで、少しずつ見えるようになっていった。


※本記事は特定の人物・企業を批判するものではなく、親族経営・事業承継の現場で起きやすい、仕組みの導入と運用に関する構造的な問題を整理したものです。

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